「アイフレイル対策活動」における眼科医療機器関連企業への期待

京都大学 大学院 医学研究科
眼科学教室
教授
辻川 明孝 先生
辻川 明孝 先生

 2021年9月30日に第19回日本眼科記者懇談会が行われ、アイフレイル対策活動が開始となりました。アイフレイル対策活動のスローガンは「目の健康寿命をのばそう」です。我が国の平均寿命は男性が81.25歳、女性が87.32歳ですが、健康寿命は男性が72.14歳、女性が74.79歳であり、平均寿命とは約10年の隔たりがあります。厚生労働省の「健康日本21(第2次)」でも「健康寿命の延伸と健康格差の縮小」を目標に掲げています。日本眼科啓発会議もアイフレイル対策活動を通して、健康寿命の伸延をめざした活動を行います。

フレイルとは

 近年、「フレイル」という概念が急速に浸透してきています。フレイルは健康状態と要介護状態との中間として位置づけられ、自立障害や健康障害を招きやすい状態です(図11。厚労省は健康寿命延伸に向けた施策の柱のひとつとして「フレイル対策」を挙げており、2020年から「フレイル健診」が全国で開始されています。

図1

アイフレイルとは

 日本眼科啓発会議が作成した新しい概念であるアイフレイルは「加齢に伴って眼の脆弱性が増加した状態に、様々な外的・内的要因が加わることによって視機能が低下した状態」を示します(図22。加齢により眼球の予備能は低下し、様々なストレスに対して脆弱になってきます。最初は無症状であったり、時に、見にくさや不快感として自覚する程度でしょう。それを放置していると、更に脆弱性が増し、障害を発症すると視機能の低下が現れてきます。重度の視機能障害に陥ってしまうと、回復は難しくなり、日常生活は制限されます。早期に発見できれば、機能回復させること、進行を遅らせること、症状を緩和させることが期待できます。

図2

 本邦における失明原因は緑内障、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性、白内障など介入可能な、慢性疾患が上位を占めます。また、2015年に新規に身体障害者手帳を取得した人は70歳以上が62.5%を占めることから、高齢者になってから高度な視覚障害に至るケースが多いことがわかります3。このことからもアイフレイルを早期に発見することの重要性が理解できます。

アイフレイル対策活動

 アイフレイルが進行し、高度な視機能低下に陥ると日常生活が制限され、直接的に健康寿命を短縮します。それだけでなく、アイフレイルは転倒のリスクを増加させたり、認知症を進行させたり、社会参加の妨げとなるなど、フレイルを悪化させることによっても健康寿命を短縮させます(図3)。今回、急速に広がりを見せているフレイル対策とタッグを組むことで、健康寿命の伸延に貢献できることが期待されます。アイフレイル対策活動の目標は、まずは中途失明原因として上位を占める疾患をターゲットとし、早期発見・治療により、高度な視機能の障害に至る人を減らすこと、更には、フレイルから要介護の状態に至るのを予防することを目指します。

図3

 更に、ふと気づいた見にくさを、「歳のせい」として片付けないで、自分自身の見る力を振り返る機会とし、一生涯にわたり読書、運転、スポーツ、趣味などの人生の楽しみ、快適な日常生活を維持するための活動を目指しています。一番のターゲットである40歳以上の目の衰えを感じ始めた世代を対象に、自分の目を大切にしてほしいと、キャッチコピーは「がんばってきた目とこれからも仲良く」に決定しました。セルフチェック(図4)、検診を通して、アイフレイルを早期に発見するため、「40才を過ぎたら、点検という感謝を!」と、行動を促しています。

図4

 アイフレイル対策活動が身近な活動になるようにホームページ(www.eye-frail.jp)を開設し、ポスターを準備しました(図5)。この活動を実りあるものにするために、まずは、眼科医療関係者がアイフレイル対策活動の意義・内容を理解していただく必要があります。そのためには「アイフレイルガイドブック」をぜひ、ご一読ください4

アイフレイル対策活動における眼科機器関連企業への期待

 アイフレイル対策活動を進めるにあたって、患者さんに直接対応するのは眼科医、視能訓練士です。重篤な視機能障害の原因となり得る疾患の有無を診断し、必要であれば、治療を行います。重篤な疾患がない方に対しては、症状の改善のためのプチビジョンケアを行います。しかし、眼科医の一般健康人へのアクセスは限られています。一般健康人、特に、アイフレイル対策において重要なターゲットである40歳以上の眼の衰えを感じ始めた人への啓発に関して眼科医療機器関連企業の皆さまの方の協力を期待しています。

 眼の不調を感じても「歳のせい」として片付けてしまう方、自分の眼のことなど気にしたこともない方に、いかに、自身の視機能の重要性に気づいてもらうことが「アイフレイル対策活動」においてキーになります。企業の皆様の宣伝活動・広報活動の中に、一般の皆さんに自身の眼の衰えに気づくヒントになる要素を取り入れていただくことをご検討いただきたいと思います。そういう意味で、眼科医療機器関連企業の皆さまの方に期待するとことは非常に大きいと思っています。

 「アイフレイル対策活動」がまずは眼科医療関係者の皆様に、そして、国民の皆様に愛されるワードとなり、健康寿命の伸延に貢献できることを願っています。

●文献
1. 荒井秀典. フレイルの意義. 日老雑誌. 2014; 51: 497-501.
2. 辻川明孝. 「アイフレイル」対策活動. 日眼会誌. 2021; 125: 459-462.
3. Morizane y, et at. Incidence and causes of visual impairment in japan: The first nation-wide complete enumeration survey of newly certified visually impaired individuals. Jpn j ophthalmol. 2019 ;63:26-33.
4. 日本眼科啓発会議. アイフレイルガイドブック. www.eye-frail.jp.